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【制度】逸失所得回避がカギ、少子化対策

こんにちは。住宅比較の森田です。

2月公表の人口動態統計速報によると、

2022年の出生数は79.9万人

と初めて80万人を割りました。在日外国人を除く日本人の確報は77万人前後になる予定です。この半世紀、ほぼ一貫して出生数減少が進んでいることに対して、政府は「異次元の少子化対策」を打ち出していますが、専門家は少子化対策を2つの原因を分けて考えるべきだと主張します。今回は3月27日の日経新聞より、2つの視点からの少子化問題とその対策についてご紹介します。

中長期的に進む少子化とコロナ禍で進む少子化

学習院大学教授の鈴木氏は、「中長期のトレンドとして進む少子化」と「コロナ禍で進む少子化」の2つに分けて考えるべきだといいます。前者の対策は容易ではありませんが、後者はまだ対策が可能だからです。

コロナ禍の少子化要因

顕著な要因は

婚姻率の低下

です。2015~2019年の平均婚姻率は人口1000人あたり4.9でしたが、2022年は4.2と急落しています。結婚しないと出産しにくい文化である日本では、婚姻率の低下は深刻な問題です。

また、若者の結婚観が変わり始めていることも懸念材料になります。2021年の出生動向基本調査では、未婚女性の希望こども数が1.79人と、初めて2人を下回りました。30前半男性の約3割、女性の約2割が

一生結婚するつもりはない

と答えています。対策をせずにこの傾向が定着すると、コロナ禍後も元に戻らなくなる可能性があります、

中長期の少子化要因

直接要因は

晩婚化・晩産化、非婚

です。背景にあるのは、

①進学率や就業率上昇で進女性の機会費用増加

→女性のキャリア進出が広まったことで、出産によって中断されたときに失われる収入が増加。出産控えの原因に。

②教育費や住宅費などの育児の直接費用増加

③若者雇用の不安定化や低賃金化

④日本企業における働き方の柔軟性欠如

などです。

岸田政権の少子化対策は「子ども予算倍増」ですが、決定している内容は「出産育児一時金の引き上げ」で、児童手当拡充や短時間労働者などへの給付金の中身の議論はこれからです。むしろ各自治体の動きの方がずっと速いほど。もっとも従来の研究結果によれば、現物給付や現金給付の効果はあったとしてもわずかです。さまざまな政策が実施されてきましたが、少子化のトレンドが変わっている様子はありません。

出産とは投資である

経済学の観点からすると、

出産とは夫婦による一種の投資行動

です。長期的費用と便益を比較検討して、子どもという「耐久消費財」の投資量が決定されます。一人の子どもにかかる教育費や生活費は

1300~3000万円

程度とされています。この直接費用よりはるかに大きいのが、子育てに対する女性の機会費用です。最近の研究によれば、キャリアを中断することで失うとされる収入は、

大卒女性で約2億円、高卒女性でも約1億円

この費用と比較すると、月一万円程度の児童手当が倍増しても焼け石に水です。

解決策は

こう考えると少子化対策の本丸は、

給付増ではなく女性逸失所得の回避

といえます。現在でも、18歳未満の子どもをもつ女性の約3分の2が、第1子を産んだ後までにキャリアを中断しています。結婚に対する考え方は変化しているのにこの現状である原因は、昔から変わらない日本の雇用環境とそれを支える専業主婦優遇制度。これと近年の子育て支援を比較した結果、いまだにキャリア中断を選ばざるを得ないのではないでしょうか。

男女平等参画社会の現代、政府は伝統的な夫婦のモデルではなく、欧米のように男女ともに仕事を継続しながら子育てをする「デュアルキャリア夫婦」向けの施策に主軸を移すべきです。

異次元の対策をするのであれば、従来の日本の伝統を真正面から是正する必要があるのです。

即効性のある少子化対策としては、コロナ前から倍増している女性の同棲率に着目し、コロナ禍で結婚、出産をためらっていた人の後押しをすること。またコロナ禍の出産控えで限界年齢に達しつつある人への不妊治療補助増額も有効と鈴木氏は言います。

児童手当拡充の落とし穴

少子化対策強化のためには、何をするにしても財源確保が不可欠。政府内では「子育て支援連帯基金」の創設が検討されているといわれています。年金や医療、介護などの社会保険から少子化対策の財源を拠出させる制度です。既存の子ども・子育て拠出金と類似した仕組みですが、鈴木氏はこの制度の実現には大きな問題が2つあると指摘します。

第一に、子育てをしている現役層が負担の中心になる可能性が高いこと。

日本の社会保険はすべて高齢者にかかる費用を主に現役層が負担する仕組みになっていて、高齢者の負担は少ない状況。連帯基金の負担も同様になることが予測されます。「給付金をもらうために連帯基金を負担する」なんていう二度手間みたいなことは容認されにくいでしょう。「子どもが増えて社会保険の持続可能性が高まる=高齢者の利益になる」と打ち出し、高齢者にも公平に負担してもらうことが必要になります。

第二に、拠出金は社会保険料の流用なのでブラックボックス化しやすく、チェック機能が働きにくいこと。

少子化対策と関係のない業界団体への補助金に使われる可能性も否定できません。

鈴木氏によれば、少子化対策において有力なのは、以前検討されていた

子ども保険

とのこと。高齢者を含む全国民に一律に保険料を課す仕組みです。これなら子ども向けであるという用途が明確にあるため、国民がチェックしやすいと考察。4月に発足する子ども家庭庁の予算に子ども保険を計上すれば、子ども施策の司令塔として期待ができるとみています。

物価上昇や賃上げの希み薄で、出産はおろか結婚率も減少し続けている今日。その場しのぎの支援策や改革ではなく、国民の約3割を占める高齢者への忖度や旧体制に対する真正面からのイノベーションが、国民の意識を変え、婚姻率・出生率上昇への近道となります。

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